たとえばスキとかキライとか










汗の滲む肌に蝉の大合唱が響く

澄みきった青空には、鰯雲が浮かぶ季節だというのに

何故彼らはこんなにも元気なのか

そして何故今日はこんなにも暑いのか...

伊集院炎山は額に浮かぶ汗を黒い袖で拭いながら

日差し照りつける公園の時計の下に立っていた


(時間を読み間違えるなんて...俺としたことが...)


熱斗絡みの事になるとどうにも

俺の思考能力から“落ち着き”という言葉が消えうせるらしい

拭った汗はあっという間に蒸発して黒いシャツの袖に

わずかな白い結晶を残していく


(長袖なんか着てくるんじゃなかった...)


後悔ばかりが浮かぶ中チラチラと木陰のベンチが視界に入る

じりじりと肌を焦がす太陽から逃げて

今すぐにでもあそこに飛び込みたい

そんな衝動をぐっとこらえながらひたすら時間が経つのを待った


(あと1時間...)


約束の時間より30分は早く来るつもりだったが

まさか時間を読み間違えるなんて...

おかげでこの炎天下の中1時間30分もすごすことになってしまった

ただでさえ熱斗を待つ間は通常の何十倍も何百倍にも

時間が流れるのを遅く感じるというのに...


「ちっ」


思わず舌打ちをしていた

その間にも顎をつたって汗は流れていく

普段ならどんなに長く感じようとも熱斗と会う為とあらば

このくらいの時間いくらでも耐える事のできる炎山である

大抵熱斗は約束の時間に遅刻してくるので待つことにも慣れている

が 如何せんこの暑さである

デスクワーク派のIPC社副社長には地獄以外の何物でもないだろう


「あと55分... まだ5分しか経っていないのか!?」


いつの間にか思ったことをすべて口に出している事にも

暑さで沸騰した脳には理解できていないだろう

組んだ腕と腕の重なった部分だけ少し色の濃くなっているTシャツを

忌々しげに睨み付けてからふと視線をあげると

木陰のベンチには杖を持った老人が腰掛けていた

老人の白く長い髭が太陽の光をチカチカと反射させながら

静かな風になびいている

炎山の銀髪はとうの昔に汗で額に張り付いていて

これぐらいの微風ではなびかないほどになっていた


「少しだけなら...」


歩きかけて持ち上げた足を引き戻すと再び足を組んだ

ここからあのベンチまでは少し距離がある

もし俺が向こうで休んでいる間に熱斗が来たら

俺のことを見つけられないかも知れない

そう思ったからこそ先程からベンチに行くのを躊躇っていた


“PETで連絡をとりあえばいい”


そんな簡単な答えにたどり着けないのは


『熱斗絡みの事になると思考能力から

          “落ち着き”という言葉が消えうせる』


からであろう


再び時計を確認しても針はさほど進んではいなかった

うつむいてこめかみを押さえながらため息をつく

気のせいか段々と頭が重たくなっている気がする

左右に2〜3度頭をふってから視線を上げると

世界が大きくゆらめいた

まるでウォーターベッドの上に立っているように

足元がぐにゃりと沈むような感覚に襲われた


(倒れ・・・る・・・?)


次の瞬間には目の前に地面が迫っていた


「炎山!!」


どこからか熱斗の声が聞こえた気がした


「熱斗・・・?」


地面に体がつく前に意識は闇の中へと引き込まれていった









ボタボタボタッ


顔に何か冷たいものがかかって目が覚める

目を開けると一瞬白い世界に放り出される


「・・・!?」


何度か瞬きをするとようやく人の顔らしきものが見える


「良かった!! 目覚めたんだな炎山!!」


聞きなれた声 


「熱斗・・・?」


勢いよく起き上がったせいで頭に鋭い痛みが走った


「・・・痛っ」


「急に起きては駄目だよ ほらコレを飲みなさい」


冷たい缶ジュースとともに見知らぬ声が降ってきた

見上げるとそこには先ほどまでベンチに座っていた老人が立っていた


「軽い日射病だろうよ ほらスポーツドリンクだから 飲みなさい」


困惑しつつも受け取った俺に熱斗が声をかける


「このおじいさんが炎山をここまで運んでくれたんだぜ?」


もう一度見上げると老人は微笑んだ


「あ ありがとうございます」


すでに汗をかきはじめているジュースのプルをつまむと

指に力が入らなかった


「貸して オレがあけるよ」


ひょいと缶を抜き取ると

次の瞬間にはプシュッという空気の抜ける音がする


「はい」


笑顔の熱斗から缶を受け取ると俺はいたたまれなくなって下を向いた

日射病になってぶっ倒れて、杖をついてる老人にベンチまで運ばれて

おまけに自分で缶を開けることもできないなんて・・・


情けない・・・


がっくりと項垂れる俺を横目に熱斗はジュースを飲みながら苦笑する


「本気でびっくりしたよー

 公園についたと思ったら目の前で炎山が倒れるんだもん」


目の前で・・・?

時計を見ると約束の時間までまだ30分もある

顔を上げて熱斗を見ると

熱斗は一瞬息を呑むと頬を染めて視線をそらした

小さな唇が少し怒ったようにとがっている


「1ヶ月ぶりに炎山に会えると思ったらさ 時間 読み間違えた」


ぼそぼそと聞こえてきた声に

俺は思わず口をあけたまま止まっていた

それは今まで生きてきた中で最高に間抜けな顔だったに違いない


そんな俺達をみて老人は笑い


「それ きちんと飲むんだよ」


そう言って去って行った

後に残された俺達の間を涼しげな風が吹き抜ける

沈黙をやぶったのは熱斗だった


「っぷ」


いきなり噴出すと熱斗は腹を抱えて笑い出した

つられて俺も笑ってしまう

キラキラと強い日差し照りつける公園に

俺達二人の笑い声がこだまする


ああ 熱斗に巡り会えて良かった

熱斗を好きでよかった

たまにはこんな風に馬鹿になるのも悪くはない

一番大事な人と一緒なのだから―――




FIN





*後書き*

31000Hit 筑紫様 

リクエスト内容:炎熱小説 


なんか硬い書き方でスミマセン;;
いつもとは違う書き方にしてみようと思ったのですが
えっといかがでしょうか?
お互い好きで好きでしょうがない炎熱を目指してみました
ちょっと急ぎ足になりすぎたかな・・・

キリリク有り難う御座いましたvvVV



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